日本国内のパティスリー、つまりケーキ屋さんで「ヴァンドゥーズ(販売スタッフ)」として人生の半分以上を費やしてきた私は、大のスイーツ好き。1年間休職し、フランスでヴァンドゥーズとして働きつつ、さまざまな地方菓子を食べてきました。皆さんは、フレジエというケーキをご存知ですか?
【コラム】仏アルザス地方のイースターご当地焼き菓子「アニョーパスカル」とは? 仏菓子を現地で食べ歩いたヴァンドゥーズが語る後悔「フランス版・苺のショートケーキ」とも呼ばれるフレジエ。ジェノワーズというスポンジ生地に濃厚なクレーム・ムスリーヌ(カスタードクリーム+バター)と苺をたっぷりサンドしたケーキです。苺のショートケーキは、スポンジケーキというイメージですが、フレジエはスポンジ生地に対して苺とクリームがたっぷりなので、スポンジ部分はそこまで主張していません。
フランスにも、さまざまな苺の種類がありますが、日本で好まれる甘い苺と違い、酸味もあります。だからこそ、この濃厚なクリームが合うのですね。滑らかでコクのあるムスリーヌと、程よい酸味の大粒苺。一口食べただけで、もう幸せ!
苺のショートケーキは、日本人が考える「ケーキ」の王道。老若男女、皆大好きなのでバースデーケーキとしてもよく選ばれています。日本のパティスリーで売り場に立っていると、お客様に「苺のショートケーキはありますか?」とよく聞かれます。しかし、フランスのパティスリーで働いていた時「フレジエはありますか?」と聞かれた記憶がないのです。
「フランス版・苺のショートケーキ」と言うからには、フランス人にとって「ケーキといえばフレジエ」と思うくらい人気ではないの? フランス人が食べたいバースデーケーキは、フレジエではないの? 2023年にパリで開催されたサロン・ド・ラ・パティスリー(サロン・デュ・ショコラのパティスリー版)でのアンケートによると、フランス人の好きなケーキTOP3は以下の通りでした。
1 位:フルーツのタルト/フレジエ
2 位:エクレア/ルリジューズ(※)
3 位:ミルフイユ
※シュークリームを 2 つ雪だるまのように重ねた伝統菓子
クラシカルなケーキが上位を占める中、フレジエはフルーツのタルトと並び堂々の第1位。春~夏のケーキとして、とても人気があるようです。
ところが、私のまわりのフランス人はバースデーケーキにタルトやミルフイユを食べる人が多いのです。義理の両親にも尋ねてみましたが、「フランス人が誕生日に食べるケーキといえばフレジエ」というわけではないそうです。他にも古くから親しまれているケーキはたくさんあり、流石ケーキの歴史が長いフランス。さまざまなケーキがフランス人の生活の一部になっているのだと感じました。
日本における苺のショートケーキは、不二家の創業者・藤井林右衛門氏が1922年(大正11年)に作ったのが始まりと言われています。今ではフランスで『フレジエ・ジャポネ(日本版・フレジエ)』として紹介されるようになりました。
一方フレジエは、19世紀後半にフレッシュの苺を使用したケーキが「現代フランス料理の父」とも呼ばれるオーギュスト・エスコフィエの料理本に書かれています。その後1966年にフランス菓子界のレジェンド、ガストン・ルノートル氏が現在のフレジエとなるものを開発し、「バガテル」という名前で世に出したと言われています。
由来は諸説ありますが、クラシカルなフレジエは、パート・ダマンドというアーモンドペーストを薄く伸ばし上面に飾っており、ルノートル氏が開発したケーキと合致しています。現在、フレジエはパリだけでなく地方でも売られており、多くのフランス人に親しまれています。フレジエが店頭に並ぶと、春の訪れを感じる……そんなケーキのようです。赤くてかわいい苺をあしらったケーキが並ぶと、それだけでショーケース全体が華やかに。つい立ち止まって、ショーウィンドウを眺めてしまいます。
中身は違うけれど、苺のケーキは日本人もフランス人もやっぱり大好きなのですね。
【コラム&イラスト:Miko】
都内近郊のパティスリーでヴァンドゥーズとして働きながら、フランス語を猛勉強すること約7年。1 年間休職し、フランスはリヨンのショコラトリーでヴァンドゥーズとして働いた他、アルザスでヴァンダンジュ(葡萄摘みの仕事)や、ノルマンディー地方の農家で豚の世話も。フランス中の地方菓子を食べ歩いた食いしん坊。現在はフランス人の夫と子供たちと日本で暮らす、現役ヴァンドゥーズ。イラストも勉強中!
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