北海道・上士幌:55歳でケーキ屋創業 営業続けて今や80歳の鉄人おばあちゃん「蹴飛ばされても死なないよ」

「ピーコックス」店主の玉池由紀子さん北海道
「ピーコックス」店主の玉池由紀子さん
「ピーコックス」店主の玉池由紀子さん
「ピーコックス」店主の玉池由紀子さん

北海道・上士幌で小さな洋菓子店「ピーコックス」を営む店主の玉池由紀子さん。玉池さんは1944年3月2日生まれで、55歳のときに同店を創業。以来、約25年間にわたって1人でケーキを作り続けている。80歳とは思えないほどの元気と覇気があり、イキイキした姿に気持ちも惹かれる。今回は玉池さんの元気の源や、洋菓子店を始めた経緯をうかがった。

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自然に囲まれた「ピーコックス」入口
自然に囲まれた「ピーコックス」入口

玉池さんの1日の始まりは早い。およそ朝5時に起床し、すぐに朝食を取る。日の出に合わせて起床しているため、冬は少し遅い目覚めだという。5時30分から6時には店の厨房へ来てケーキを焼き始め、10時に営業開始。必ず17時きっちりに閉店し、帰宅後すぐに夕食を取っている。

夕食後は翌日の仕込みのために、店に戻って21時頃まで作業をする。その後、お風呂を済ませて就寝。スケジュールだけを見ると、1日のほとんどを仕事に使っているようで、想像しただけで疲れてしまいそうだ。しかし、玉池さんは笑顔でこう話す。

「お客さんが来なくて作るものがない時間は、本を読んだりお昼寝もできるから自由よ。そんなにきつい仕事ではない。思ったより自由にやってるでしょ」

普段は玉池さん1人で製造と営業をしているが、外せない先約や体調不良などがある場合は、前日にケーキを夜なべして作ってショーケースに並べ、主人に留守番を頼むこともあるという。玉池さんは冗談交じりに「主人は箱詰めもへたっぴ。ケーキに関することは何にもできないの。仲良く見えるけどいつも喧嘩腰よ」と話す。いつものことなのだろう。文句に聞こえる内容だが楽しそうだ。

取材時に提供していたケーキ7種
取材時に提供していたケーキ7種

創業したのは55歳のとき。最初は主人の農家を手伝っていたが、朝晩の拘束が嫌になり辞めてしまった。しかし、そうなると当然何もやることがなくなり「何かしないとボケてしまう」と考える。

主人は「何でも好きなことをやりなさい」と言い、玉池さんは小さな女の子の夢のように、何も考えずに「ケーキ屋さん」と呟いた。それが始まりだった。

最初はまわりの人も「こんな山の中だから人なんて来ないよ」と言っていたため、玉池さんも「3年保てばいいや」と思っていたという。

しかしそんな想像とは裏腹に、今や地元の月刊誌などに取り上げられるほど注目され、地元の人々に愛される店となった。

本来の目的であるボケ防止も効果は抜群で、「人と接触する、手や頭を使って考え、作り出す。おかげでまだボケてないよ。ボケのボの字くらいよ」とハキハキとした口調で話す。

2種類のクリームがたっぷり詰まった「シュークリーム」
2種類のクリームがたっぷり詰まった「シュークリーム」

店で提供しているケーキは、どれも西洋や昔ながらのお菓子。毎回必ず出るのは、人気のある「グリゾン」や「チーズケーキ」、「シュークリーム」。その他のケーキは、玉池さんが食べたいと思ったものを選んでいるという。

お菓子作りは独学で学んだという玉池さん。きっかけは、玉池さんが結婚した1970年まで遡(さかのぼ)る。

当時近くに洋菓子店がなく、ケーキを食べたければ遠くても買いに行くしかなかった。そこで自らの手で作り始める。玉池さんは、菓子作りを始めた当時を振り返って笑う。「やっぱり子供の頃に食べていたお菓子は食べたくなるじゃない」

図書館でケーキの本を借りて、何度も試作を重ねた。「1冊につき2~3品習得できれば、その本には100パーセントの価値がある」と本のありがたさを語っている。人気の「グリゾン」や「チーズケーキ」などをはじめ、現在のケーキのレパートリーは30種類以上におよぶという。

また、「食べてくれる人がいることも大きい」という。結婚して数日の頃、玉池さんはおやつにプリンを作った。それを食べた主人は気に入って「次はこれ。あれは作れる?」とリクエストするようになる。しまいには、毎日10時と15時に必ず帰ってきて「今日のおやつは何?」と楽しみにしてくれるようになった。

作り置きをしておかなければならないほど喜んでもらえて、嬉しかった。この”食べた人がおいしいと言ってくれる”ことが、お菓子作りのきっかけになっているかもしれないと言う。さらに「ピーコックス」の創業にまでいたる。

レジで明るく会話をしている玉池由紀子さん
レジで明るく会話をしている玉池由紀子さん

他方、玉池さんは陶芸やダイビング、釣り、木工など趣味を多数もつ。特に作ることが大好きで、必要な物は自らの手で何でも作る。テーブルからベッド、椅子、カヌーまで何でも手作り。

カヌーは1922年に2艘(そう)作り、片方は知人にあげて、もう1艘はまだ手元に保管しているという。ダイビングなど年齢を重ねるごとに控えるようになった趣味もある中で、現在最も楽しんでいるのは陶芸だ。

陶芸は50歳に始めて以来ずっと続けており、展示会に出展した陶芸品は受賞するほどの実力を持つ。初めて出品した北海道シニア陶芸展にて、新人最優秀賞を受賞。現在も店が冬期休暇中に自宅の地下室で作り、帯広市民ギャラリーで行われる平原社展に出品している。

最初は自分の実力がどこまで評価されるのか試してみたかったというが、受賞後は一層熱が入り「今度は知事賞が欲しいわ」なんて言いながら何度も出品するようになったそうだ。玉池さんが最初に受賞した陶芸品は、同店の入り口に飾ってあり、誰でも見られる。

北海道シニア陶芸展にて新人最優秀賞を受賞した陶芸品
北海道シニア陶芸展にて新人最優秀賞を受賞した陶芸品

1人で洋菓子店を切り盛り、本格的な趣味が複数ある。80歳になってもイキイキと元気でいられる秘密は何だろうか? 玉池さんはこう答えた。

「好きなもの食べて、言いたいこと言って、遊ぶだけ遊んで、そして最後に仕事をする。これができたら極楽、もう何も文句言うことはない。主人は言っても聞かないから放っておこうというのが先にあるんだろうけど、そうさせてくれる。自分の好きにできるっていうのが、1番の秘訣」

今までにストレスを感じることは少なく、そうなってしまってもすぐに忘れるようにしているという。仕事の優先順位は最後になっているものの、どんなときも全て100パーセントの気持ちと力を入れて取り組む。

「嫌だと思いながらの仕事はすぐに嫌になっちゃうけど、毎日自分が満足しているから仕事も同じようにキチっとできる」

自分の気持ちに正直になり、好きなことをやっているおかげで、死に対する後悔や恐怖は一切ないという。「蹴飛ばされても死なないよ。60歳までの人生かなと思っていたのに、まだ誰も迎えに来ない!」と力強く話し、笑っていた。

玉池さんはユーモアもあり、文句や冗談も言うが、質問すれば何でもしっかり答えてくれる玉池さん。今後について、シンプルにこう話す。

「これからも、買って食べてくれた人がおいしいと言ってくれれば嬉しい」

好きなことにまっすぐ、元気をもらえるおばあちゃんがいる「ピーコックス」。北海道・上士幌にある、隠れたパワースポットだ。

【ピーコックス】
住所:北海道河東郡上士幌町字上音更西3線261
時間:10時~17時
定休日:木曜日、1月1日~3月31日(年内は12月25日まで営業)
電話:01564‐2‐4074(固定電話、FAXも同様)

【取材・撮影・文:ゆめ】

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