【コラム】1730年創業　仏パリ最古のパティスリー「ストレー」の伝統スイーツ「ババ・オ・ロム」本場の味わいに感激

日本国内のパティスリー、つまりケーキ屋さんで「ヴァンドゥーズ（販売スタッフ）」として人生の半分以上を費やしてきた私は、大のスイーツ好き。1年間休職し、フランスでヴァンドゥーズとして働きつつ、さまざまな地方菓子を食べてきました。

私が人生初のフランス旅行で最初に食べた本場のケーキは、1730年創業・パリ最古のパティスリー「ストレー」（2区）のババ・オ・ロムです。

パリの胃袋とも呼ばれるレ・アル地区・モントルグイユ通りにある、「ストレー(Stohrer)」のババ・オ・ロム（ロムとは、仏語でラム酒のこと）は、乾燥したイースト生地にラム酒シロップをたっぷり染み込ませたフランスの伝統菓子です。このケーキを発明したのが、店名にもなっているニコラ・ストレー。

ストレーは、ドイツ国境付近のアルザス地方・ヴィサンブールという小さな村のパティシエでした。当時、この村に亡命していた元ポーランド国王（後のロレーヌ公）スタニスラス・レクチンスキーの厨房でパティシエ見習いとなります。美食家のスタニスラス王は、母国ポーランドからバブカというブリオッシュ（クグロフのような形をしたパンの一種）を持ち帰っていましたが、長旅で乾燥しきってしまいます。そこで、おいしく食べられるようにと甘口ワインをかけ、しっとりさせてから食べたというのが、始まりと言われています（甘口ワインは、後にラム酒へと変わります）。

1725年、スタニスラス王の娘、マリー・レクザンスカがルイ15世に嫁ぐと、共にヴェルサイユへと向かったストレー。5年もの間マリーに仕えた後、宮殿を離れ、自身の店をパリのモントルグイユ通りに構えます。創業から現代まで、そのレシピは守り続けられていると言います。

パティスリー「ストレー」は、昔、私が働いていたフランス菓子店のシェフが、渡仏するなら絶対に行くべきと勧めてくれたお店。それもそのはず、「ストレー」は1730年創業のパリ最古のパティスリーなのです。店はさほど広くありませんが、煌びやかな店内はまるで歴史ある美術館のよう。実は、パリのオペラ座の装飾を手がけたポール・ボドリー氏の弟子が、ここ「ストレー」の装飾に携わったのです。店自体が歴史的建造物として登録されているので、現在は他店舗でも購入可能なババ・オ・ロムですが、本店では古き良きフランスを感じられると思います。

ババ・オ・ロムは、プレーンタイプのものから、生クリームを添えたものなど、さまざまなバージョンが出ていますが、中でもラムレーズンとカスタードを詰めたバージョンの『アリ・ババ』というケーキが私のイチ押しです。

アリ・ババは、スタニスラス王が愛読していた『千一夜物語』の登場人物から命名されたとも言われています。ラム酒の芳醇な香りとともに口の中で溶けるようになくなるイースト生地。ラム酒シロップに、たっぷり詰められたカスタードクリームがまろやかさを与え、なんとも美味。当時働いていた日本の職場でも販売していたため、「これが本場のアリ・ババなのだ」と感激したものです。

ちなみに日本でもおなじみのサヴァランは、ババ・オ・ロムを元に考えられたもの。サヴァランが誕生する100年ほど前、すでにストレーによって考案されていたババ・オ・ロムは、元祖とも言えるでしょう。パリに行く度に訪れるこのお店は、私のヴァンドゥーズ人生の原点とも言えます。

また、ピュイダムール（愛の泉）というケーキも、上面をキャラメリゼしたカスタードクリームたっぷりの伝統菓子として有名です。パリには時代の最先端を行くような新しくおいしいケーキもたくさんありますが、このような伝統菓子もおすすめですよ。

【Stohrer】
住所：51 rue Montorgueil 75002 Paris
電話： +33 (0)1 42 33 38 20

【コラム&イラスト：Miko】
都内近郊のパティスリーでヴァンドゥーズとして働きながら、フランス語を猛勉強すること約7年。1年間休職し、フランスはリヨンのショコラトリーでヴァンドゥーズとして働いた他、アルザスでヴァンダンジュ（葡萄摘みの仕事）や、ノルマンディー地方の農家で豚の世話も。フランス中の地方菓子を食べ歩いた食いしん坊。現在はフランス人の夫と子供たちと日本で暮らす、現役ヴァンドゥーズ。イラストも勉強中！