北海道・上士幌:「ピーコックス」80歳のおばあちゃんが手作りケーキを1個200円台で販売 こだわりは「純粋な素材だけ使うこと」

純粋な素材と自宅で採れた果実を使ったケーキ北海道
純粋な素材と自宅で採れた果実を使ったケーキ
純粋な素材と自宅で採れた果実を使ったケーキ
純粋な素材と自宅で採れた果実を使ったケーキ

北海道・上士幌にある洋菓子店「ピーコックス」。白樺の木に囲まれた小さな店には、80歳の玉池由紀子さんの手作りケーキが並んでいる。その値段は1個200円台。今回は、そんな手作りケーキの安さと素材へのこだわりに迫った。

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木漏れ日が綺麗な入口
木漏れ日が綺麗な入口

同店は道道337号を進み、西2線のところにある小さな店。観光道路である道道337号には、曲がる場所が分かるように大きな看板が立っている。それを目印に脇道へと入ると、右手には牛舎、左手には白樺の木に囲まれた同店が見える。このエリアには駅がなく、唯一あるバス停は約8キロメートル先のため、車やバイクでの移動が必須だ。駐車場は約3~5台分。日によって作業車が止まっているためバラつきはあるが、止められないほど混みあうことは少ない。店内は焼き上げなどで熱くなりがちだが、1歩外へ出ると風通しが良く、夏でも涼しいと感じられる。

店内は2人並んで丁度良いくらいの広さで、玉池さんが「はい、いらっしゃい」とほっとする声で出迎えてくれる。地元の人からツーリングや観光で通りかかった人まで、立ち寄った多くの人が常連になっている。客層は旭川と札幌から来る人が多く、地元の人は口コミを見て訪れる。小さな子どもを連れた家族から、高齢者まで多くの人に愛されている店だ。隣にある牛舎は、主人の仕事場。肉牛を育てており、元気な牛の声が聞こえてくる。牛の声を聞きながら元気で気さくな玉池さんとする会話、そして手のひらに乗る大きさのケーキ。人目を気にせず一息つける、居心地の良い店だ。

どこを食べてもクリームがたっぷりの「シュークリーム」
どこを食べてもクリームがたっぷりの「シュークリーム」

同店の1番人気は、クルミをたっぷり使った「グリゾン」(税込み259円)。他にも「シュークリーム」は税込み205円、「アップルタルト」と「ルバーブタルト」は税込み227円とどれもお手軽価格だ。ここまで価格を下げるためにしている工夫はあるのだろうか。店主の玉池さんはこう答える。

「純粋な素材を使ったら、当然私の労賃は出ないわよ。でも食べさせてくれる人がいるから、これで稼ごうとは思わない。自分の責任で好きなことをやりなさいと(主人が)言ってくれたの」

安さの秘密は原材料や利益を考えた結果ではなく、互いを信頼、尊重して支え合う気持ちだった。“好きだから始めた”店主の玉池さんと、“その気持ちを尊重してあげたい”農家の主人。この2人だからこそ実現できた価格である。

原材料のこだわりは、“純粋なものを使う”こと。マーガリンやショートニング、植物性の生クリームなどは絶対に使わないという。

入手場所は主に十勝・帯広のみ。どうしても近くに材料がないときは、札幌まで足を運ぶ。1月1日~3月31日の冬期休暇で日持ちする材料を集めており、生クリームなど日持ちしない物は木曜日に買いに行く。「定休日である木曜日の買い出しは、デートの代わりなの」と笑顔で答えていた。肉牛が仕事の主人から原材料をもらうことはないが、1番大切な“相手を尊重し支える気持ち”をたくさんもらっているのが話をしていても伝わる。

原材料において、お菓子用のクルミで国産はもうほとんどなくなってきており、どうしても輸入品になってしまう。しかし、小豆は必ず十勝産を使用。北海道の中でも十勝は豆類の生産量が多く、道内の7割を占めている。玉池さんも「小豆は十勝がいっちばんおいしい」と笑顔で答えた。同店で小豆を使用しているのは「小雪」のみ。中はあんこで、外がラム酒で溶いたマジパンの菓子だ。

右手前「サバラン」、左手前「グリゾン」
左手前「グリゾン」、右手前「サバラン」

同店には、街中や駅ビルなどでは見かけないケーキも並んでいる。1番人気の「グリゾン」はサクサク食感の生地とたっぷりのクルミ、キャラメルが好相性のケーキ。キャラメルの主張は強すぎず、軽い食感でパクパクと食べ進められる。手のひらに乗せられる大きさなので、味わいや食感を楽しんでいると、あっという間に完食してしまう。木の実が入ったお菓子と言えば、フロランタンのように薄くてポリポリと食べられるものが多い印象だが、同店はケーキとして取り入れているので、食べ応えもしっかりしている。

「シュークリーム」は、シューを上下半分に切ってクリームを挟むタイプ。これは、玉池さんが子供の頃に食べていた、昔ながらのシュークリームと同じ形である。生クリームとカスタードクリームの2種類を混ぜ合わせず、そのまま入れることについては「2つの味を楽しめるでしょ」と笑顔で答えていた。

「ルバーブタルト」と「アップルタルト」は、自宅で育てる果樹園から収穫した果実を使っている。どちらもジャムにしてタルト生地とクリームの間に忍ばせている。果樹園で育てているのはルバーブとリンゴの他に、ラズベリーやカリンズ、山ぶどう、ハスカップの4種類。

「サバラン」はパン生地にシロップを漬けているケーキ。想像以上にたっぷり漬けており、上からほんの少し押すとじわっとシロップが滲み出てくる。通常の「サバラン」はブランデーで漬け込むが、苦手な人が多いため同店では砂糖のみのシンプルなシロップを使用している。生地の上には一口サイズのクリームと、細かく刻んだドライフルーツをあしらっている。

販売している商品は全てテイクアウトのみ。電話注文も対応しており、日本全国への配送も可能だ。ただし、電話で注文しても聞き間違い防止のため、必ずFAXで住所を送ることを条件としている。

【ピーコックス】
住所:北海道河東郡上士幌町字上音更西3線261
時間:10時~17時
定休日:木曜日、1月1日~3月31日(年内は12月25日まで営業)
電話:01564‐2‐4074(固定電話、FAXも同様)

【取材・撮影・文:ゆめ】

「グリゾン」税込み259円「ルバーブタルト」税込み227円「アップルタルト」税込み227円「サバラン」税込み259円

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