
店が閉店したとき、その店で長く愛されてきた「味」も一緒になくなってしまうのだろうか? ヒルトン成田が2026年のクリスマスケーキとして販売する「苺のミルフィーユ」は、この問いを考える興味深い一例だ。
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もとになっているのは、2015年に閉店した「銀座マキシム・ド・パリ」の看板スイーツ。同店で総料理長を務め、現在はヒルトン成田の調理顧問である齋藤裕之さんが、当時のレシピをもとに再現する。サクサクとしたパイ生地でイチゴとカスタードクリームを挟み、側面にはローストしたアーモンドスライスを散りばめる。
ここで重要なのは、単に「昔のレシピが残っていたから、もう一度作った」という話だけではないだろう。
料理や菓子の味は、レシピに材料と分量を書き残せば完全に保存できるものではない。焼き加減、クリームの状態、生地の扱い方など、作り手が現場で身につけてきた感覚も味を構成する。かつて実際にその厨房に立っていた料理人が再現に携わることには、文字にならない技術や記憶まで次につなげる意味がある。

もちろん、当時と現在では食材の調達環境や設備、製造場所、販売方法なども異なる。今回の商品化にあたっても、当時のレシピを土台としながら、ヒルトン成田で安定して提供するためのさまざまな確認や調整が重ねられたことは想像に難くない。「同じものをそのまま作る」というより、かつての味を現在の環境でどう表現するかという仕事でもあるはずだ。
閉店した名店の味を後世に残す方法はさまざまだ。レシピを記録することもあれば、元スタッフが別の場所で技術を生かすこともある。今回のように、当時を知る料理人自身が新しい場所で再び形にするケースもある。
店という空間には寿命がある。しかし、そこで培われた技術や味の記憶まで、閉店と同時に消える必要はない。
名物スイーツが場所を越えてもう一度提供されることは、単なる「復刻」にとどまらない。店がなくなった後も、その店が積み重ねてきた食文化の一部を次の世代へ渡していく。一皿のミルフィーユには、そんな役割もあるのかもしれない。
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