
「小麦粉は一切使っていません」。グルテンフリーケーキの販売に際して、こうした説明を見かけることがある人は少なくないだろう。しかし、小麦粉を使わなければ、それだけで安心できるのだろうか。実は、原材料と同じくらい重要なのが、ケーキを製造する「厨房」である。
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グルテンは、小麦や大麦、ライ麦などに含まれるたんぱく質に関係する成分。セリアック病など、健康上の理由からグルテンの摂取を避ける必要がある人もいる。一方、グルテンフリーを食生活上の選択として取り入れる人もおり、その目的はさまざまだ。
問題となるのが、製造過程での意図しない混入だ。
消費者庁は、2026年7月版のパンフレット「外食・中食を利用するときに気をつけること」で、小麦粉やそば粉が調理中に舞い、別の食品に混入する危険性を指摘している。
同資料では、アレルギーに配慮したケーキを販売する洋菓子店の取り組みも紹介。原因となる食材が混入しないよう、他のケーキと同じ調理器具を使わないなどの対策を挙げている。
つまり、グルテンを含まない材料を選んでも、通常のケーキと同じ厨房で製造していれば、混入の可能性が生じる。
例えば、小麦粉を使った生地をミキサーで混ぜる際に粉が舞い、作業台や調理器具に付着する可能性がある。共用する器具の洗浄が不十分だった場合も、混入の原因になり得る。
混入リスクを減らす方法の1つが、通常のケーキの製造場所と区分された専用厨房の整備だ。調理器具や原材料の保管場所なども分けることで、意図しない混入のリスクを減らしやすくなる。
農林水産省も、2020年に制定した「ノングルテン米粉の製造工程管理JAS」で、グルテンが混入する可能性のある箇所を特定し、製品の含有量が1ppm以下となるよう工程を管理する仕組みを定めている。
これは米粉の製造工程に関する規格であり、一般のケーキに直接適用されるものではない。それでも、原材料だけでなく、製造環境そのものを管理する重要性を示す事例と言える。
また、グルテンフリー商品の開発が容易ではないことを示す事例もある。スターバックスは2025年12月25日、グルテンフリー商品として開発していた「米粉カステラ」および「抹茶の米粉カステラ」の販売中止を発表した。
製造工程および原材料の最終確認で、原材料の一部に微量の大麦麦芽が含まれていたことが判明したためだ。今回は厨房での混入ではなく、原材料の確認に関する問題だったが、大手企業であってもグルテンフリー商品の開発・管理が難しいことを浮き彫りにした。原材料の選定から製造工程の管理、最終確認に至るまで、細心の注意が求められるのである。
ただし、すべてのグルテンフリーケーキに専用厨房が法律上義務付けられているわけではない。共用厨房でも、適切な清掃や器具の使い分け、作業工程の分離によって混入リスクを低減することは可能だ。
一方、専用厨房を整備するには、設備投資や作業場所の確保、通常商品とは別の製造体制の構築などが必要になる。一般的な洋菓子店にとって、決して小さくない負担となるだろう。それでも、健康上の理由からグルテンを避ける消費者に商品を届けるためには、製造環境の管理を軽視することはできない。
将来的に、販売店は、製造環境のより積極的な情報開示を求められる時代になっていくかもしれない。
例えば、「専用厨房で製造」「通常のケーキと厨房を共用しているが、器具と作業時間を分けている」など、実際の対策を明記する。可能であれば、グルテン含有量の検査の有無や、その結果についても示すのが理想だ。
また、グルテンフリーと小麦アレルギー対応は同義ではない。消費者庁も、欧米などのグルテンフリー表示と日本の食物アレルギー表示では基準が異なると注意喚起している。専用厨房で製造したからといって、すべての人への安全性が保証されるわけではない。
グルテンフリーケーキを販売する店にとって、重要なのは「何を使っていないか」だけではない。「どのような場所で、どう作っているか」まで説明すること。その透明性が、消費者の適切な商品選択と、店舗へのさらなる信頼につながるだろう。
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