
東京・新橋の「田村町 木村屋」は、戦争や関東大震災を乗り越え、今もなお愛され続ける老舗洋菓子店だ。明治33年(1900年)にあんぱんで知られる「銀座 木村家」から暖簾分けし、現在は4代目店主・大塚浩さんが受け継いでいる。今回は、長年愛され続ける「バナナケーキ」を目当てに、田村町本店を訪問した。
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JR新橋駅・日比谷口を出て右に進み、大通りを左に直進。交通量の多い大きな交差点にある「西新橋」の看板の近くに、濃い色味の木目の柱と赤色のプレート看板でデザインされた同店が見える。ちなみに、最も近いアクセスは、都営地下鉄内幸町駅・A2出口。階段を上り切って振り返ると目の前だ。
店外には焼き菓子の詰め合わせ商品が並び、入口の正面に立てば、右側に洋菓子がたくさん並んだショーケースが見える。同店のケーキと焼き菓子は、工場と売店を兼ねている店舗「アトリエ」で製造されている。田村町本店には、毎日12時前後に全商品が揃い、洋菓子は常時20種類前後を販売している。
大塚さんが店を受け継いだのは、今から33年前。バブル時代が終了して不景気になったタイミングで世代交代した。まわりの老舗が立て続けに潰れていく中で、当然、同店の商品も売れ行きが思わしくなかった。
そんな同店を助けたのは、世間の”流行”だ。スイーツブーム、老舗ブーム、レトロブーム、カフェブーム。スイーツブームの時は、当時ブームを牽引していた仏菓子に合わせて、商品を一気に入れ替えた。しかし、同店の客層は昔からの常連が多く、仏菓子を求める人たちは近隣の銀座に流れていった。そのためブームにあやかる作戦は失敗に終わり、すぐに元のラインアップに戻したという。

すると、他店との差別化がうまくいき、今度は「もう少し昔、さらに昔のケーキ」と遡(さかのぼ)って商品を揃えていった。結果、当時から約40年前の定番商品が並ぶようになる。現在も、昭和40年頃から販売され続けている「バターケーキ」や「バナナケーキ」が店の売り上げを支えている。

そんな定番人気の「バナナケーキ」は、クレープ生地にカスタードクリームを塗り、中央に配置したバナナをくるくると丁寧に巻いた一品。長さがあり、ねっとりとした甘みが特徴のエクアドル産バナナは、ケーキ1つに対して、3分の1本を使用している(個体により、2分の1本になる場合あり)。
カスタードクリームは、仏菓子でおなじみのクレームパティシエールを採用。小麦粉や卵、バター、砂糖を混ぜ合わせ、形が崩れないように硬めに仕上げているのがこだわりだ。クレープ生地は「アトリエ」の職人が1枚ずつフライパンで焼き上げる。多い日は全店舗(田村町本店、アトリエ、日比谷フォートタワー店)合わせて800枚を手作業で仕上げるのだから驚きだ。
同店舗では通常、夏なら200個、冬なら500~600個が15時ごろに完売する。最近はSNSで流行している影響で、約300個が最短12時30分に完売。遅くても13時前後にはなくなってしまうため、予約しておいた方が安心だ(予約はテイクアウト限定)。
同商品は約20年前、勤め人の間で認知が広がった。金融の街である新橋エリアでは、退職する人が会社に残る人に対してお礼土産を渡す風習があり、そこで「バナナケーキ」がよく選ばれていた。現在はテレビ局やレコード会社、芸能事務所などからも差し入れ用に注文が入る。

現在、客層全体のうち9割の目当てが「バナナケーキ」。1度に2個以上購入する新規客が多いという。実際、取材中に来客を見ていると、3人に2人が「バナナケーキある?」、「(売り切れの札を見て)いつ売り切れちゃったの?」などと店員に質問を投げかけていた。中には、ショーケースを見るなり踵(きびす)を返したり、売り切れだと知って翌日の予約を取っていく人も。
店内は常に満席だが、極端に長居する人がいるわけではない。空席が出たと思えば、すぐに新たな客が入り、椅子取りゲームのように素早く入れ替わっているのだ。外に並ぶ人はいないものの、終始賑わっている。

取材を終え、待ちに待った実食タイム。ふくよかなフォルムは、今すぐかぶりつきたくなるほど愛らしい。半分にカットされたケーキは、テーブルに置いたままでもバナナの香りがしっかりと届く。生地はもちっとしていて柔らかく、フォークをそっと差し入れるだけで難なくカットできる。
最も甘みが強いパーツはバナナ。安定した甘みは口いっぱいに広がり、余韻としてゆったり長く残る。バナナは生地の両端までぎっしり詰まっている。カスタードクリーム特有のぷるんと感や濃厚なコク、ねっとりした舌触りのバナナ、もちっとしたクレープ生地がたまらない。万人受け抜群のシンプルな構成でありながら、ずっしりとした中身で高い満足度を実現している。

一緒に頂いた少し酸味のあるコーヒーは、ケーキの甘みをほどよく引き締め、口の中にまとわりつきやすいバナナのねっとり感をすっきりと一掃してくれる。それぞれの素材の風味をじっくり味わうなら、飲み物はできるだけ無糖を選ぶのがよさそうだ。
ケーキとコーヒーの組み合わせは、筆者の好みにまっすぐ刺さった。すぐに次が食べたくなり、つい手が伸びてしまう。1つ目はペロッと完食し、2つ目はお腹にしっかりと溜まる。ほっと一息ついたり、深呼吸をしながら、忙しなく動き続ける現代人が「もうひと踏ん張り頑張ろう」と思えるような一品だ。
【田村町 木村屋 本店】
住所:〒105-0004 東京都港区新橋1-18-19
時間:9時~19時30分(※バナナケーキのみ10時販売開始)
定休:土日祝日
席数:14席(テーブル7卓)
電話:03-3591-1701





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