
スイーツの世界で、静かに「タルト戦争」が始まっているのではないか。有名店の「キル フェ ボン」に加え、商業施設などに出店する「トルタイシーオ」、東京と熊本に店をかまえる「プリンセスタルト」、愛知県を中心に展開する「SAN」。本格的なタルトを展開する専門店の存在が各地で目に入る。全国の店舗数の推移を示す統計とは別に、こうした個々の出店や商品展開から、その競争の広がりが感じられる。
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参入は洋菓子店に限らない。9月10日には東京駅直結の施設に、モダンフレンチレストランが手がける「タルト アンド テーブル バイ ラス」が登場した。取材時に紹介した4品は1カットあたり税込み1,280〜1,480円。料理人の技術や素材の組み合わせを、タルトという親しみやすい形で楽しませる試みだ。

神戸発の「トゥーストゥース」も、タルトを看板商品の1つに据える。2025年9月に東京・ニュウマン高輪に開業した「トゥーストゥース ビストロ&カフェ」では、イチゴミルク風味のベイクドチーズタルト「シャペロン」などを展開する。専門店に加え、食事や店内で過ごす時間とともにタルトを楽しませる店も、競争に加わっているといえそうだ。
一体なぜ、タルトなのか。各店の商品から考えられるのは、「選ぶ楽しさ」と「専門店として展開する合理性」が両立する点である。果実を表面に並べるタルトは、主役の食材や盛りの豊かさが一目で伝わる。ショーケースでも写真でも魅力を伝えやすく、SNSで紹介したくなるきっかけも生まれる。

季節ごとに来店理由を作れる点も大きい。「キル フェ ボン」は9月、産地や品種の異なるブドウを使った全9種のタルトを展開。「SAN」もシャインマスカットやイチジクを使った秋の商品を揃える。同じ「タルトを買う」という行動に、季節が変わるたびに新鮮さを加えられる。

作り手側では、生地やクリームの一部を共通化できる商品設計なら、仕込みをまとめながら品揃えを増やせる。実際、「SAN」の秋のカットタルト3品は、いずれもプレーンのタルト台を使用する。各店の製造体制は異なるが、土台を軸に果実や仕上げを変える構成は、専門店の運営と相性がよいと考えられる。

もっとも、手軽に作れて利益が出る、とまではいえない。生地の成形や焼成、果実の下処理、盛り付けには手間がかかる。生の果実を使えば鮮度管理が必要で、売れ残りや仕入れ価格も収益を左右する。生地の食感と果実のみずみずしさを両立させる工夫も欠かせない。

価格面の強みは、素材や手仕事の価値を見せやすいことだろう。「プリンセスタルト」では、大ぶりの1ピースに加え、バナナと白ゴマ、カカオなどの組み合わせも楽しめる。果実の量、食べ応え、味の意外性が、価格への納得感につながり得る。
こうした特徴を踏まえると、専門店が広がる背景には、季節商品を生み出しやすく、見た目と味で独自性を打ち出せる構造があるのではないか。店が増えるほど、果実を美しく並べるだけでは違いが伝わりにくくなる。これからのタルト戦争では、生地の味わい、素材の相性、価格に見合う満足感が、次の一切れを買う店を決めていくことになりそうだ。
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