「とろける口溶け」の真逆 なぜ今「バリ硬」のチョコスイーツが注目されるのか

ルノアール「ザッハトルテ」イメージコラム
ルノアール「ザッハトルテ」イメージ
ルノアール「ザッハトルテ」イメージ
ルノアール「ザッハトルテ」イメージ

 スイーツの世界では長らく、「とろける口溶け」や「なめらかさ」が、おいしさを伝える合言葉のように使われてきた。ところが最近、あえてその真逆をいく“バリ硬”のチョコレートスイーツが存在感を増している。スプーンやフォークを入れてもすぐには割れない。少し力を込めると、ようやく「バリッ」、「パキッ」と音を立てて割れる。食べる前にちょっとした格闘がある。

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森永乳業「バリッチェ チョコ&バニラ」イメージ
森永乳業「バリッチェ チョコ&バニラ」イメージ

 この“硬さ”が、今の時代に合っている理由の1つは、ご褒美感の演出にある。昨今は食材や資材の高騰が続き、スイーツも気軽に量を増やすことが難しくなっている。そこで重要になるのが、単なるボリュームではなく「体験の濃さ」だ。分厚いチョコレートを割る手応え、割れた瞬間の音、断面から現れるクリームやアイス。これらは、少量でも満足感を高める装置になる。いわば“硬さで贅沢感を演出する”ことにつながっている。

『アメリ』主人公の楽しみの1つは「クレーム・ブリュレ」のお焦げを潰すこと。画像は『アメリ デジタルリマスター版』より(C)2001 UGC IMAGES-TAPIOCA FILM-FRANCE 3 CINEMA-MMC INDEPENDENT-Tous droits reserves  
『アメリ』主人公の楽しみの1つは「クレーム・ブリュレ」のお焦げを潰すこと。画像は『アメリ デジタルリマスター版』より(C)2001 UGC IMAGES-TAPIOCA FILM-FRANCE 3 CINEMA-MMC INDEPENDENT-Tous droits reserves  

 この感覚は、仏スイーツの「クレーム・ブリュレ」にも通じる。表面のキャラメリゼをスプーンで割り、その下からとろりとしたカスタードが現れる。あの一瞬には、味だけでなく、音と手触りと期待感が詰まっている。”バリ硬”チョコレートスイーツも同じく、表面の硬さと中身の柔らかさの落差によって、食べる行為そのものをイベント化している。

 さらにチョコレートは、硬さを味わいに変換しやすい素材でもある。冷やされて締まったチョコレートは、割れた瞬間に香りと存在感を放つ。口の中では徐々にほどけ、最初の硬質な印象から濃厚な余韻へと変化する。このギャップが、「ただ甘い」では終わらない満足を生む。

 とろけるスイーツが癒やしなら、バリ硬スイーツは小さな達成感だ。割って、少し驚き、味わう。その数秒の儀式があるからこそ、一口目が少し特別になる。物価高の時代、スイーツに求められる価値は、量や価格だけでは測れない。硬いチョコレートの向こう側には、令和の消費者が求める“納得できるご褒美”が隠れているのかもしれない。

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