
和菓子と洋菓子の境界線が、少しずつ曖昧になっている。
かつて「和洋折衷スイーツ」といえば、抹茶、あんこ、黒蜜、きな粉などの和素材をケーキやプリンに取り入れたものを指すことが多かった。しかし近年は、単に和素材を加えるだけではない。和菓子屋が洋菓子を作り、洋菓子ブランドが和菓子の食感や素材を取り込み、さらには日本料理の考え方を応用するなど、作り手の専門領域そのものが広がっている。
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象徴的なのが、愛知県名古屋市の老舗和菓子店「元祖 鯱もなか」による「ひとりじめショートケーキ」だ。同店は1907年創業の和菓子店でありながら、イチゴとクリームを使った正真正銘の洋菓子を展開。「和菓子屋なのに洋菓子がヒットする」という意外性もあり、注目を集めている。これは、和素材を使った洋菓子というより、「和菓子屋が洋菓子を作る」という作り手の越境そのものが価値になっている例だ。

一方、東京・神谷町プレイスの「菓子たかむら」は、カスタードを日本料理の技で再構築した「八衣カスタード」などを展開している。甘さやコクを足すのではなく、素材の持ち味を引き出し、重たすぎず最後まで食べ飽きない味わいを目指す。ここでの和洋折衷は、和素材を洋菓子に加えるだけではない。和食的な引き算の思想や、余韻の作り方を洋菓子に持ち込む試みといえる。

このトレンドの中で、抹茶を筆頭とする和素材が求められるのは、日本人の嗜好を考えれば自然な成り行きでもある。抹茶、あんこ、黒蜜、桜、米粉、和三盆といった素材は、日本人にとってなじみ深く、季節感や安心感を伴いやすい。ミスタードーナツの「宇治抹茶ドーナツ」シリーズでは、祇園辻利の宇治抹茶を練り込んだ“ふわむち”食感のドーナツ生地に、北海道あずきあん、宇治抹茶ホイップ、黒みつなどを組み合わせている。ドーナツという洋風・日常的な商品に、どらやきや抹茶、あんの要素を重ねることで、和菓子と洋菓子の中間にある新しい食べ心地を生み出している。

同様に、洋菓子ブランド側でも和素材の活用は広がっている。たとえばモンテールの「クリームと食べるとろ生カステラ」は、カステラにミルククリームとカラメルソースを合わせた商品で、和菓子的な素朴さと洋菓子的なコクを接続している。また、銀座コージーコーナーの「銀座こーじー庵」では、プリンと水ようかんを2層に仕立て、洋のなめらかさと和の涼やかさを一つのカップで表現している。チーズガーデンの「MATCHA FROMAGE」も、抹茶とチーズの組み合わせをドリンクとして展開しており、和素材が洋菓子やドリンク分野に自然に溶け込んでいることを示している。

和素材を使うことは、日本人にとって地産地消につながる場合もある。千葉県の「お菓子のたいよう」が復刻販売した「オランジュリー」は、千葉県産米粉を100パーセント使用したグルテンフリーのバウムクーヘン。米粉ならではのしっとり・もっちり食感に、オレンジスライスやバレンシアオレンジ果汁の特製ソース、チーズクリームを合わせている。バウムクーヘンは洋菓子だが、地元の米粉を使うことで、日本の農産物や地域性と結びつく。和洋折衷は、味覚の融合であると同時に、地域の素材を現代的なスイーツへ変換する手段にもなっている。

春の素材を生かしたホテルスイーツにも、同じ傾向が見られる。ザ・キャピトルホテル 東急の「桜ロールケーキ」は、桜餡、餅、白鹿の子豆、生クリームを米粉スポンジで包み、桜風味のクリームで仕上げた一品。さらにグリオットチェリーのコンフィチュールを忍ばせ、和の春らしさに洋菓子らしい酸味と奥行きを加えている。
こうした事例を見ると、もはや「これは和菓子」、「これは洋菓子」と明確に区別することは難しくなりつつある。どらやきを思わせるドーナツ、カステラにクリームを合わせたスイーツ、水ようかんとプリンの2層デザート、米粉のバウムクーヘン。どれも和菓子のようであり、洋菓子のようでもある。むしろ、分類できないこと自体が新しさになっている。
現在の和洋折衷スイーツで重要なのは、素材の珍しさだけではない。食感、香り、季節感、作り手の背景、地域性、そして「なぜこの組み合わせなのか」という納得感が求められている。和菓子屋がショートケーキを作れば、その意外性に物語が生まれる。洋菓子店が抹茶や水ようかんを使えば、なじみのある味に新しい食感が加わる。地元の米粉を使えば、洋菓子でありながら地域の素材を生かす商品になる。

この先、どのようなヒット商品が生まれるのか。抹茶や桜、あんこ、米粉といった定番和素材は今後も強いだろう。ただし、次のヒットは「和素材を入れました」だけでは生まれにくい。求められるのは、和と洋のどちらにも寄りかかりすぎない、新しい完成度だ。
例えば、米粉のもっちり感を生かしたシュークリーム、和三盆の上品な甘さを使ったチーズケーキ、味噌や醤油の塩味をアクセントにした焼き菓子、地域の果物とあんを組み合わせたタルトなど、可能性はまだ広い。
和菓子でも洋菓子でもある。あるいは、そのどちらでもない。そんなスイーツが、これからの売り場、ひいては業界をさらに面白くしていきそうだ。
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